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サイケデリック・マウンテン

巡査長 真行寺弘道シリーズの作者、榎本憲男さんの新作が突然、5月に発売されていた…。9月になって気づいて購入し読んだ。

 

榎本さんの小説に、真行寺弘道シリーズではない 「エアー 2.0」 という作品がある。 https://amzn.asia/d/5tJkAjO

2016年、2011年の東日本大震災と2020年のオリンピックの間に発表された、オリンピックスタジアムの建設現場から始まるその時は近未来小説。もう過去になっちゃいましたが。エアー2.0とは、お金を産みだすマジックシステムで、それを作った天才おじいちゃんと日雇い労働者中谷が、老人政治家やマスコミと戦いながら、エアー2.0の生み出す金を使って被災地の復興を目指すが…という物語だった。この小説が好きな人は多いのではないか。

その「エアー2.0」と同じころに書かれ、お蔵入りしていたのが、この「サイケデリック・マウンテン」なんだそう。

www.hayakawabooks.com

「エアー 2.0」では国よりも自分が大事な保守政治家と国のために働こうとする中谷や若手官僚たち、中谷が代表を務める財団法人まほろばに対し胡散臭い団体でスキャンダルがたくさん出てくればいい商売になると考えてあらを探したいマスコミなど、主人公側が主体で善であり対立する側はただ邪魔をしてくるという漫画チックにわかりやすかったのだが、「サイケデリック・マウンテン」は、善悪が混沌として感情移入しにくい。確かにお蔵入りしちゃうよな(;^ω^)と思ってしまった。

日本を資源のない国から資源国に転換させるため、固形燃料の材料になる遺伝子組み換え作物を大規模栽培し、グリーンコール=緑の石炭を生産する。国土は遺伝子組み換え作物で汚染されるが、国家プロジェクトであれば実現する。

考えたのは、かつてはヤクザのために特殊詐欺のシナリオを書き、その後隠れ蓑にした宗教団体のために金儲けのシナリオを書いた鷹栖という男。鷹栖は幼少のころ苦労したため、金をある所から無いところに少し移すことを自分の才能であり悪いことだとは思っていない。鷹栖はグリーンゴール計画に投資してくれるよう投資会社に営業し、官僚たちは純粋に日本の未来のためと思って国家プロジェクトとして推進しようとしている。その陰で首相は先回りし個人的に関連投資商品を購入していた。インサイダーですね。

①かつて鷹栖のいた宗教団体、

②宗教団体の洗脳から逃れた元信者のカウンセリングをする診療所、

③遺伝子組み換えの竹を栽培するために買収された土地、

④土地の元持ち主たちが住む豪華老人ホーム… 

同じ山にこの4つが存在するまさにサイケデリック・マウンテン…。

鷹栖、大物投資家二人がそれぞれ刺殺され、その捜査にあたった警視庁の弓削くん。犯人3人は元宗教団体の信者で団体をやめてから診療所を訪問したことがあり、被害者を名指しで殺害しているにもかかわらず動機についてはっきり述べることができない。洗脳されて犯行に及んだのかと疑っても、②診療所を営む心理学者が暗示にかけたとは立証できない。(結局、暗示の元は診療所の心理学者ではないのだが)

本当に売国の輩なのは首相であり、自分が首相を止める(殺す…)しかないと弓削は思いつめるようになってしまった。しかし弓削が同行する前にハンドルネーム 竹採りの翁(診療所訪問歴あり)が首相を爆殺してしまう。

というネタバレしまくりだが、ほとんど読まれないブログなので勘弁。

で、個人的読後感なのだが、鷹栖は普通に悪ですよ。単純に。わたくし的には。一応、生物由来の固形燃料が製造工程も含めてすべてのCO2排出量と、実際に生育時に取り込んだCO2と、実際にもえるときに出してしまうCO2とを比べて計算したとき、栽培してまでCO2削減にプラスになるものは今はないらしい。小説なので、そこをクリアした遺伝子操作された竹ができたのだ、ということだ。鷹栖はその数値を確認したり、ちゃんと考えてはいるようにはみえる。しかし、日本が資源国になるレベルでやるには、日本中が遺伝子操作された竹で覆われてしまうというマイナスのイメージを隠して、証券化を先に進め、投資家を呼び込み、首相に個人的に証券を買わせて(賄賂ですね、リクルートコスモス株みたいなイメージ)推し進めていこうとするのは、悪でしかないだろ。そのごまかしテクニックこそが自分の才覚と思っているし、国家プロジェクトにすることで自分が売り抜けて儲けることが大切なので、国は二の次では?

小説は、弓削と弓削が想いを寄せる優秀な女性官僚、二人が、「鷹栖が残した宿題」(日本の衰退をどうやって止めるか?ってことかな?)にむかっていく、的な終わりなんだけど、鷹栖は悪だよフツーに。と私は思ってしまった。

でも、続きがあり得るのなら読みたいです。

わたしも非常に恵まれない家庭に育ったが、恵まれなさの中で形成された人格のいびつさを自分で擁護したらそこで人生終わりだと思うよ。恵まれなかった人生を呪うなら、戦わないとな。日々気づきながら修正していってこそ、人生。小説の中の人格だけど鷹栖嫌い。

ミシェルって外人女性の存在が何を意味しているのかわからんかった。外国人が熊野古道を歩くとオシャレで哲学っぽいけど、日本人が信念をもって行動すると怪しいとかカルトとかすぐ決めつけちゃう日本の風潮に対する皮肉でしょうかね…。

 

作者 榎本氏の故郷和歌山県… 和歌山から大阪に向かって山を越えていくと山中に風力発電の風車が林立していて驚くのだが、風力発電の風車は低周波を発するため人間の体に悪影響があるということが解っている。

https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/yojo_furyoku/dl/kyougi/akita_yuri/02_docs07.pdf

人間が住んでいない山奥に建っているのだろうが、動物にも影響あるんじゃないの?と思う。突然思い出しました…。