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『マネーの魔術師 ハッカー黒木の告白』

榎本憲男さんの書き下ろし。巡査長 真行寺弘道シリーズのスピンオフっぽい。

世界を放浪する天才プログラマー黒木透と、桐箪笥職人のところに居候している柴田澪という女性が熊野古道で知り合う。

黒木透は、金融業界のためにプログラムを提供してきて十分に報酬も得ているが、世界がお金だけで動くのはおかしいのでは?とか、なんかモヤモヤしている。

結局、柴田澪に伝統工芸士を支援しながらビジネスとしてもなんとか道を模索できるような体制を残して、次の仕事のために去っていく…。

黒木は、伝統工芸への出資と引き換えに受けた次の仕事で、更にモヤモヤしている。次の仕事は軍事ドローンに搭載するプログラム。

という、話なんだけど…。黒木と柴田の会話で示される金融のロジックとか、柴田と昔の恋人の会話にみえる日本のワンテンポ遅れた男の思考回路(吉野家の牛丼のアレみたいな)とか、作者の時代を焼き付ける力が凄いので、ストーリーを追って楽しく読みながら頭が整理されていく爽快感を味わえる。

黒木透、ロン毛の天才プログラマーという設定なんだが、諸星大二郎 「妖怪ハンター」の主人公、稗田礼二郎のビジュアルが浮かんでしまう。(^^;

榎本憲男さんのイメージだと、絶頂期のキムタクかな?

 

娯楽小説だけど、この本の主要なテーマは金融に踊らされる世界に対する疑問。

テスラのイーロン・マスクFacebookザッカーバーグが金持ちなのは、株式によるところが大きい。ビル・ゲイツやジョブスあたりまでなら、作ったものや社会に与えた影響がはっきり目にみえているので、大金持ちになるのもわかるのだが。それ以降の世代は、そうなる前に期待値をお金に替えてリッチになってしまう。マスク氏はまだ脱炭素社会に貢献できていないのに、できるかもという期待値だけでリッチになりすぎた。このモヤモヤは世界共通、というか、ご本人たち自身さえ違和感感じているから、お金を使っていろいろ本業以外のことをやらかしているのだろう。

 

黒木が柴田に、やっと日本語が通じる、というシーンがあるのだが、数年前に、熊野古道で自宅ガレージ(ガレージと言ってもトラクター何台もいれるようなここらへんの家2件分くらいの広さ)で柿売ってたじーちゃんと話したけど、まったくわからんかった。